職場のポジティブメンタルヘルス

マネージャーが部下のメンタルヘルスのためにできること

新型コロナウイルスが大流行した2年間は、外出自粛や3密といった、刻々と変化するルールに向き合わなければならず、決して穏やかなものではありませんでした。 従業員体験プログラムを提供しているEngageRocketの調査では、アジア太平洋地域の回答者の78%が、職場に対して燃え尽きたように意欲を失っていると報告しています。 Intellectのエグゼクティブ・コーチであるRobyn Camは、 「会社に毎日出勤し、生活や家族・仕事などのストレスに対処しながら日常を送る従業員たちは、人生に価値を感じられなくなっています」と述べています。 これは、生産性の低下という形で組織の業績にも影響します。 しかし、従業員のメンタルヘルスをちょうど良いタイミングでサポートできれば、このような損失を食い止められるかもしれません。 Robyn Camは、EngageRocketのソリューションコンサルタントであるTimothy Gohと共同でウェビナーを開催しました。そこでは、マネージャーがどのように部下の悩みを把握し、サポートできるかを紹介しています。 メンタルヘルスについて話し合うタイミングは? メンタルヘルスは、とても繊細な話題です。 まずは、部下が本当に悩んでいるのかどうかを見極める必要があります。そのためにRobynは、部下の外見の変化に気をつけるよう、マネージャーにアドバイスしています。 部下の服装の微妙な変化は、何らかの問題を抱えていることを示す手がかりになるかもしれません。さらに、メンタルの不調がある部下は、次のような行動の変化を見せることがあります。 もちろん、各個人の性格などは把握しておく必要があります。 もともと内向的な人が殻に閉じこもっているのは普段通りと言えますが、それまで活発だったのに引っ込み思案になってしまった人は、そうとは言えません。 結論を急がず、注意深く観察した結果をまとめて、当人とメンタルヘルスについての話ができるように準備しましょう。 対話のきっかけをつくる 管理職の方が、部下とメンタルヘルスについて話し合うことに決めた場合、以下の点に気をつけてください。 適切なタイミングを選ぶ 部下が心を開いてくれそうなタイミングを選びましょう。 例えば、部下が仕事に追われている場合、特定の日時をこちらから指定すると、かえってストレスになる可能性があります。 代わりに、相手が希望する日程に合わせることで、部下を気遣いましょう。 センシティブな話題であると意識する 他の同僚に聞こえるところで、メンタルヘルスの話をするのは避けましょう。 プライベートな会話ができる空間を選んでください。 喫茶店に誘うなどして、カジュアルな雰囲気にすることもできます。 「どうすれば会話をスムーズに進められるか考えた上で、環境を整えましょう」とRobynは話します。 言葉と非言語による気配り 部下の悩みについて話しても大丈夫かどうか、あらかじめ本人に確認しておくと安心でしょう。 また、実際に話しあう時は、座る位置や声の大きさなど、非言語的な要素も意識してみてください。 Robynは、部下と真正面に向き合って話すのはやめた方がいいとアドバイスします(あなたが上司に報告する立場だとしたら、それがいかに威圧的に見えるかわかるはずです!)。 「相手と並んで座るか、お互いテーブルの角に座り、真向かいにならないようにしましょう。そうすることで相手は少し落ち着き、心を開きやすくなるかもしれません」 ポジティブな関係を築く あなたは部下を呼び出して、話を始めようとしています。 おそらく、彼らはちょっと緊張しながら、次の一言を待っています。 あなたは何を言えば良いでしょうか? Robynは、Intellectの臨床チームの専門家が開発した、会話を始めるための3ステップ・フレームワークを共有しました。 1. 悩みを理解しようとする まず、部下が心を開きやすくするために、あなたのことを心配していると伝えましょう。 脅しや決めつけと受け取られないよう、言葉は慎重に選びます。 「近頃、失敗が多いんじゃないかな」というような、非難と取られかねないフレーズは避けましょう より適切な話の始め方は、以下の通りです。 「最近、あなたのことがちょっと心配なんだよね。何か話したいことはある?」といったように。 仮に、部下のパフォーマンス低下によって組織への影響があったとしても、そこには触れないようにしましょう。 会話の焦点は、あくまで部下のウェルビーイングの状態に合わせます。 例えば、ある部下が仕事に対して無気力な場合、仕事のやり方についてではなく、「元気がないね」などと心配する気持ちを伝えましょう。 部下の無気力さが組織に悪影響を及ぼしているといったことについては、言及を避けます。 部下をフォローアップすることも、彼らが置かれている状況の全体像を把握するのに役立ちます。 部下とメンタルヘルスについて話し合うための無料の職場ガイドをダウンロードして、フォローアップする際に参考にしてみてください。 2. 相手に共感する 部下が心の内を話している時は、相手が安心できるように、優しく続きを促しましょう。 「悩みを打ち明けてくれてありがとう、勇気を出して説明してくれてありがとう、と言うと良いでしょう」とRobynは言います。 相手の考え方には同意できないかもしれませんし、同意する必要もありません。 しかし、相手の感情を認め、相手の苦境に共感することは、大きな効果をもたらします。 共感どころか、「大したことじゃないだろう」「君は繊細すぎる」といった発言は、部下を傷つけて、心を閉ざし、その場が台無しになりかねません。 3. サポートの体制を整える 相手の状況を深く理解した上で、サポートを申し出ましょう。 注意すべきは、サポートとアドバイスとは違うということです。 心の悩みを持つ部下に「こうした方がいい」「こうしない方がいい」とアドバイスすることは、上司と部下の関係を越えてしまう可能性があります。 また、あなたはセラピストではないので、カウンセリングをする必要もありません。 専門的なトレーニングを受けた人でない限り、アドバイスなどはメンタルヘルスの専門家に任せましょう。 部下が自分の状況をより明確にするために、専門家に相談するよう促すことはできます。 例えば、「カウンセラーには相談してる?もしくは、専門家のサポートを受けたりしてみる?」といったように。相談窓口の電話番号や、Intellectアプリなどの情報を伝えることもできます。 組織のリーダーであるあなたの言動は、部下のウェルビーイングに大きな影響を与えます。 あなたが彼らの味方であり、サポートする意志を伝えるだけで、困難な状況から抜け出せることもあるのです。 「問題が起こった時に、どのように対応すればいいかを知っておきましょう。ひとりで問題に立ち向かうのではなく、一緒に問題に対処するという意識を育むことが重要です」と、Intellectの臨床心理士Linda Rinnはアドバイスしています。 より詳しい情報やヒントについては、管理職の方が自信を持って部下のメンタルヘルスについて話し合うためのガイドをご覧ください。 このガイドには、3つのステップごとに、言うべきことと言ってはいけないことのサンプルが含まれています。

産休・育休・復職中の女性に伝えたいこと【産業医のキモチ】

出産という人生の一大イベントを挟み、働く女性は、産休、そして育休の期間を過ごします。出産のために休む、育児のために休むとされるその期間ですが、文字通り心も身体も休まっている女性は、まずいないことでしょう。 今回は、産休・育休・復職という大きな契機を迎える女性への負担について、産業医・精神科医の尾林誉史(おばやし たかふみ)先生にお話を伺いました。 当事者である女性だけでなく、職場の周りの方や、ご家族の方にも、ぜひ読んでほしい内容となっています。 出産する女性の負担について考える 1.出産・育休中の心への負担 出産する女性には、身体的な負担が大きくかかることは言うまでもありません。母子の生死にもかかわる、この一大イベントの期間内では、ホルモンバランスが急激に変動します。そのため、女性は身体的な変化のみでなく、精神的な変化にもさらされることになります。 マタニティーブルーと呼ばれる、妊娠中や出産後に見られる精神症状の変化は多くの女性が経験しますが、その症状が長引くと、産前・産後うつにいたることもあるのです。 男性の育児参加も徐々には活発になってきていますが、このダイナミックな変化の全てを代替することは、残念ながらできないのです。 2.育休からの復職は、暴風雨を進むようなもの 育休の期間が明けると復職を迎えますが、ここから女性は、さらに大変な時期を過ごすことになります。復職後は時短勤務を選べる職場もあるものの、それは決して、仕事が楽になることを意味してはいません。 逆に、限られた勤務時間で成果を出さなければいけないため、そのプレッシャーやストレスは、妊娠前の勤務時とは比べものにならないでしょう。 また、勤務を終えても、休む間もなく訪れる育児は、疲れた体に追い討ちをかけます。 それはまるで、暴風雨のなかを進むようなもの。もちろん後戻りは許されず、子どもは成長しますし、仕事も待ってはくれません。 女性の社会進出や男女平等な社会は、概念的には大変素晴らしいものですが、女性の側だけに頑張りを強いるやり方に、限界があることは明らかです。 3.復職後、両立が難しい課題と向き合う 産休・育休を経て復職した女性を見て、私は「医師免許を目指しながら弁護士資格も目指しているような大変さ」を感じてしまいます。例えとして適切かどうかは、何とも言いようがありませんが、仕事と育児というただでさえ大変な役割を同時に背負っている、しんどさの頂上決戦とでも言うべきハードさを強く感じるのです。 ここには、いくつかの共通点があるように思います。 まずは、片方だけでも真剣に取り組めばキリのない作業を、並行して行わなければならないという点。このことについては、誰も異論はないでしょう。 そして、求められるスキルや知識、技法が大きく異なるという点も見逃せません。仕事は頭脳労働であり、育児は感情労働ですから(もちろん、このようにきれいに分別できるものではありませんし、それ以外の負荷もかかっています)、気持ちの休まる暇は全くありません。 さらには、意識的に手を抜かなければ、とことん終わりなき旅になってしまうという点も類似しているように思います。真面目で几帳面な方ほど、ほどほどで済ませることができないものです。 ただ、こうした例えでは説明のしようがないのは、資格試験のように合否という区切りがないという点でしょう。また家庭や環境ごとに個人差が大きく、他人とは比べられないものでもあります。 仕事も育児もほどほどにするコツ このように、大きな心身の変化のみならず、大きな環境の変化に直面せざるを得ない、働く女性のみなさんに、私は「両方100点を目指さないでほしい」と、そっと声をかけたいのです。 私の専門領域である精神科の臨床においても、産業医の実際においても、要所要所でうまく手を抜ける人、時に自分を適切に甘やかせる人ほど、逆に人生が充実しているように感じられるのです。 産休・育休・復職という立場にある女性のみなさんには、先延ばしできることはしっかりと先延ばしにし、任せられることは遠慮なく任せてしまうということをお伝えしたいです。 周りの力をうまく借りてほしいのはもちろんのこと、職場の同僚やパートナーの方々も、「ああ、〇〇さんは上手に手を抜いてくれているな」「自分が協力できれば、◯◯さんも少しは楽になるかな」と想像力を働かせてほしいのです。 育児と仕事の両立をする女性にとって、職場では上司や同僚などと、家庭ではパートナーや親御さんとの共同作業にできることは、きっと大きな力になることでしょう。 自分を追いつめすぎてしまう前に、産業医や子育て相談の窓口、コーチング(カウンセリング)なども、気軽に活用してみてくださいね。     PROFILE: VISION PARTNER メンタルクリニック四谷 院長(精神科医・産業医)尾林 誉史 東京大学理学部化学科卒業後、(株)リクルートに入社。退職後、弘前大学医学部医学科に学士編入し、東京都立松沢病院にて臨床初期研修修了後、東京大学医学部附属病院精神神経科に所属。現在、VISION PARTNERメンタルクリニック四谷の院長を務めながら、23社の企業にて産業医およびカウンセリング業務を担当。メディアでも精力的に発信を行なっている。著書に「元サラリーマンの精神科医が教える 働く人のためのメンタルヘルス術」(あさ出版)、共著に「企業はメンタルヘルスとどう向き合うか―経営戦略としての産業医」(祥伝社新書)など。

意見の飛び交うチームに必要な心理的安全性を高める6つの方法

意見の飛び交うチームに必要な心理的安全性を高める6つの方法

世界中のあらゆる国で職場が再開しつつあり、「再入社(re-entry)」とも呼ばれているように、人々はオフィスに戻り始めています。 パンデミック前に戻るかのように見える一方、大多数の人々はオフィスに戻ることに不安で、大きなストレスを抱えています。 その不安は、同僚と自然に会話を始められないと感じることや、公共交通機関を使うことへの安全上の懸念かもしれません。 では企業はオフィス再開において従業員をどのようにサポートでき、どのようにメンタルヘルスに配慮できるのでしょうか? 最もよい方法のひとつに、思っていることやスムーズな職場再開のために必要なことを気兼ねなく表に出せるような、心理的安全性と職場への信頼を築くことがあります。 心理的安全性の高い環境とは? ハーバードビジネススクール教授のエイミー・C・エドモンドソンによると、心理的安全性とは「考えや質問、懸念や間違いを発言しても、罰せられたり恥ずかしい思いをしないと信じていること」とされています。 チームの中では、メンバーが発言者に対して拒絶したり、恥ずかしい思いをさせたり、罰したりしないという共通の信念のことを意味します。 このような環境は当たり前に存在していなければならないと考えるかもしれません。しかし、どんなに合理的な状況でも、人々は黙っていることがあるのです。 例えば、看護師が患者の健康に影響を及ぼす可能性があるプロセスに気付いていても、脅迫されたり罰を受けることを知っている場合、何も言わない可能性が高くなります。 もちろん、その場合は最悪の結果になります。 ハイブリッドワークやリモートワークが当たり前となるなかで、こういった状況はより増えています。 職場に戻る調整でストレスを感じていたり、同僚の憂うつに気づいたりしたときには、声を上げられることがとても大切です。それでは、どうすれば心理的安全性のある職場環境をつくることができるのでしょうか? なぜ重要なのか? ビジネスにおいて、心理的安全性を定量化することは難しく感じるかもしれません。 この記事の後半では、心理的安全性の計り方と進捗を確認する方法についてご紹介します。 しかし、声を上げるための安全性が感じられないとき、問題は表面化せず、イノベーションは停滞し、連携力は弱まるでしょう。 人々は職場に来ることを恐れ、言われたこと、許可されたことしかやらないことになるかもしれません。これは彼らのキャリアアップにも影響します。 長期的には、被害を受けるのは会社です。人々の強みを生かすことができず、失敗に対処する能力を備えられず、不安な時期に機動性を保つ革新性を生み出せないのです。 職場の心理的安全性を築く方法 GoogleのPeople Operationsチームにより実施された興味深い研究によると、成功するチームには5つの要素があるそうです。 その中でも、心理的安全性が圧倒的なトップです。実際のところ、研究によると、心理的安全性はその他の4つの要素(信頼性、構造と明確性、意義、影響)を支えるものなのです。 心理的安全性がないと、チームメンバーはミスを認めず、連携しなくなり、新しい役割を引き受けたくなくなる傾向にあることがわかりました。 職場での心理的安全性を高める6つのヒントをご紹介します。 1. 共感する 同じ出来事にも人それぞれ違った受け止め方をすることを知っておいてください。 例えば、同僚と対面することを喜ぶ人もいれば、同僚に好かれないかもしれない、気まずい会話をするかもしれないと、不安に思う人もいます。週に3回オフィスに戻ることに対して気分良く思わない人もいます。 その理由を決めつけるのではなく、それぞれの観点を理解するよう努めましょう。 2. 自分の反応を確認する 他の人があなたに提案やフィードバックをしにきたとき、あなたはどう反応しますか? 直感的に責めたり非難するようなら、相手はあなたへ提案やフィードバックをすることに神経質になっている可能性が高いです。 もし感謝の気持ちで受け止められ、「大切な問題を提起してくれてありがとう。これで時間を節約することができます」と言えるようなら、周りの人は今後も快く意見を共有してくれるでしょう。 3. 実行の問題ではなく、学習の問題にあてはめる 仕事を学習の問題にあてはめることで、課題解決に必要な、学ぶことのできるスキルや能力、知識があるからこそ問題が生じている、と考えることができます。 実行の問題だとすると、問題を解決できない人、もしくは問題を作り出した人の責任となり、より個人的な問題になってしまいます。 4. 自分も間違うことがあることを認める これは、リーダーとしての主体性に関わります。間違ってしまったかもしれないときや、違った観点から考えられていなかったときに、進んでそれを認めることは、あなたもただ一人の人間であるというメッセージになります。 間違いは学習や成長の本質的な要素で、間違いから教訓を学び、よりよく対応できるようになるのです。 5. 質問することで好奇心を示す 質問をすることは、常にすべてを知っているわけではないことを意味します。 人々は、質問する価値がないと思って、本当は大事な質問をしないことがあります。 しかし、小さな質問や重要でない質問などないということを示すことができれば、周りの人も後に続くようになるでしょう。 6. 全員の発言を促すフレームワークを活用する 「誰か意見はありますか?」と言うのではなく、順々にめぐり、何かしらの価値を提供できる意見や、アイデア、フィードバックを全員が発言できるようにするのです。 こうすることで、意見を言うことが当たり前になり、発言に怖気づかなくなります。 心理的安全性のある環境を築く過程は時間を要します。 しかし、あなたがチームメンバーをサポートするために必要なことを理解している場合、不可能ではありません。 実現できれば、次のような可能性を考え始めることができます。 チームメンバーがベストな状態であり続けるために何ができるだろうか? 新しいアイデアを持ち込み、イノベーションに対して大胆になり、様々な観点から考えることを促すにはどうすればいいだろうか? 今の仕事に誇りを持ち続けるために何ができるだろうか? 結局、チームの勝利は、組織全体の勝利を意味するのです。

行動コーチングが従業員エンゲージメント戦略に不可欠な理由

従業員エンゲージメントは常に企業の課題となっています。 パンデミック前からすでに、エンゲージメントの低い従業員により、企業には年間5500億ドルものコストがかかっていました。 エンゲージメントの低下した従業員は、仕事や企業の成功に対する貢献姿勢が低いため、欠勤率が高く、ミスを起こしやすい傾向にあります。 エンゲージメントの高い従業員と比較して、彼らは90日以内に離職する可能性が3.3倍高く、企業にとって大きな損失となります。 しかし、2020年のMercerによる研究では、極めて優れた従業員体験を提供できているのは、人事チームのうち11%に留まりました。 大量退職に伴い、常に先を行くためには従業員エンゲージメントを優先しなければならないことに、企業は気付き始めています。 そのための手法となりえるのが、行動コーチングです。 その理由を見ていきましょう。 従業員エンゲージメントの課題 デロイトは従業員エンゲージメントを「従業員が、組織や自分以外の従業員、ビジョンやゴールに対して抱く感情的なコミットメント」と定義しています。 従業員エンゲージメントへの企業の取り組みにおける最大の落とし穴は、それを人事部の問題としてしまうことです。 人事部は意識調査を行ったり福利厚生を導入したりできますが、従業員エンゲージメントの責任は経営チームにあり、組織を率いる手法や醸成する文化が問われているのです。 ギャラップによると、リーダーにとって効果的な手法は、上司になるのではなくコーチになることです。 リーダーにとって、行動コーチングは個人やチームのエンゲージメントにフォーカスするものです。 ただ従業員に指示するのではなく、コーチは各従業員に特有の能力や強みを引き出し、望む方向に導き、重要性や価値を感じさせながら、より優れた結果を達成できるのです。 問題なのは、ただ命令することのほうが簡単だということです。 コーチングは結局のところスキルであり、すべてのリーダーが自然にできることではありません。ここで、行動コーチのような専門家の出番となります。 行動コーチングとは? Behavioral Coaching Instituteによると、行動コーチングとは、従業員のパフォーマンスの促進だけでなく、学習や発展にも関連する科学と芸術です。 これにより、組織は成長し、個人は仕事や学習や社会的な場面で、より効果的で、幸せにいられるのです。 オーストラリアを拠点とするIntellect認定の行動コーチであるRobyn Camは、コーチングを次のようにて定義しています。 「メンターは職場や業種に特化しており、過去に経験があって道筋を教えてくれる人です。セラピストは、何がうまくいかなかったのか、どこで行き詰まっているのか、人生を振り返り、心理学的な課題に取り組みます。コーチは、あなたがどの道を行くのか、何に取り組んでいるのか、それをどのように実現できるのかに着目します」 つまりコーチは、個人的なハードルを超え、周囲からモチベーションやインスピレーションを見つける手助けをするのです。 行動コーチングを通じ、人は潜在的な能力を解き放ち、創造性や成長、発展への可能性を特定することができます。 そして、安全で信頼感のある、偏見のない環境で、目的やビジョンを明確にすることができます。 リーダーや従業員がコーチング文化を手にすれば、力強く、連帯感のある職場環境の創造に取り組むことができます。 仕事と私生活は思っている以上に絡み合っているため、コーチングは役に立ちます。 誰もが個人的なストレスと仕事関連のストレスに悩まされ、メンタルヘルスとパフォーマンスに影響が及びますが、自分自身をケアしたり問題を解決するための時間や場面がなく、チームメンバーに伝えるスキルも持ち合わせていないかもしれません。 「マネージャーと従業員の関係にコーチが介入すれば、従業員がセンシティブな問題に対するサポートを受けられており、マネージャーと従業員の間のプロフェッショナルな関係が保たれていることを、マネージャーは確認することができます。困難な状況にいる従業員に関わりサポートする必要があるようなら、コーチはマネージャーにとっての相談相手にもなりえます」と、Robynは言います。 誤解しないでほしいのですが、行動コーチは指示しません。 Robynの言葉を借りるなら、代わりに「相手が自身の道筋を見つけるための土台を作る」のです。 コーチングが従業員エンゲージメントに与える影響 行動コーチングは、マネージャーや従業員に、行き詰まりを感じたときに使える手法や戦略を与えてくれます。 コーチングは従業員とマネージャー、そして従業員と企業間の有効な関係性をつなぎあわせる手助けをしてくれると、Robynは言います。 点と点をつなぐことで、従業員は目的を見出し、より自信をもって確実に踏み出せるようになるのです。 マネージャーは、チームを育て、よりエンゲージメントの高い職場をつくることのできる、より優れたリーダーになることができるでしょう。 大きな全体像を見せる Robynは物流会社のマネージャーの例を挙げます。 その会社では、とある従業員がデータ入力のミスを繰り返しながらも、本人は大きな問題と捉えていませんでした。 「マネージャーはいらだっていました。これまで解雇したことはなく、今回もそうしたくなかったので、別の解決策を模索しました」 「彼は視点を変えました。従業員が仕事の結果とその重要性を理解するための戦略を考えたのです」 マネージャーはその従業員を視察のために港や波止場に連れ出し、彼女がデータ入力を一桁間違うだけで、シンガポールに送るはずのコンテナがインドに送られてしまう可能性があることをその目に見せました。 おかげで彼女は自分の仕事の影響を理解することができ、いまもその会社で働いています。 「コーチングとは何かは、理解されにくいものです。結果をとても重視します。職場での経験について会話し、それについて違った方法で取り組むのです」と、Robynは言います。 内発的、外発的なモチベーションのバランスを保つ 従業員にとって、行動コーチングは内発的にやる気を維持し、仕事の目的意識を見つけることに役立ちます。 Great Place to Workの新しい研究によれば、内発的な動機の欠如は、企業を幸せでエンゲージメントの高い職場から遠ざける重要な課題です。 回答者の多くが、自分の仕事には意味がない、もしくは、違いを生み出すことができないと答えています。 「報酬など外発的なインセンティブを提供するのは人事部です。行動コーチは、企業の価値観や理念と従業員が連携する手助けをすることで、従業員が職場でよりやる気になり、連帯感を感じ、意欲的になるようにします」 内的なつまずきを解消する 行動コーチングが従業員を手助けするもう一つの方法は、個人的な問題について話す環境を与えることです。 「ネガティブな認知を直視したり、シフトすることで手助けします。人々は自分の考えに囚われてしまっていることがあります。 マネージャーに好かれていないために、機会やプロジェクトにおいて見過ごされていると考えるように、ある行動は彼らに反抗していると考えてしまうのです。 コーチングセッションを通じて、例えば、持っているスキルを明確に提示できていなかったことに気付くかもしれません」 従業員が内面的な問題や不安、判断を整理する手助けは、従業員のメンタルヘルスの安定やレジリエンスを改善し、結果、職場環境や関係性の改善につながります。 足りていなかったピースは行動コーチングかもしれない マネージャーが最初から優れたコーチであることや、従業員が自ら連携の意識を見出すことを、企業は期待できません。 多くの場合、ガイドが必要ですが、ガイドを求めるべき相手がマネージャーなのか、キャリアカウンセラーなのか、セラピストなのか確信が持てないのです。 行動コーチングを従業員エンゲージメント戦略に組み込むことは、戦略的な方法と言えるでしょう。

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