2021年のPwCの調査によると、回答者の57%が在宅勤務によりパフォーマンスや生産性が向上したと報告しています。そのため、43%の企業リーダーがハイブリッドワークを恒久的に導入する計画を進めているのも納得です。
しかし、この働き方の変化が私たちの身体的および精神的な健康にどのような影響を与えるかを考えることも重要です。特に、テレワーク(リモートワーク)は日々の働き方を改善する一方で、必要不可欠でありながらも見落とされがちな要素である「睡眠」に影響を及ぼしています。
そこで今回は、睡眠研究者で心理学者のStijn Massar博士に、テレワークと睡眠の関係、そして睡眠の質を向上させる方法について伺いました。
睡眠の重要性

睡眠不足は、注意力、モチベーション、感情に悪影響を及ぼします。一方で、質の良い睡眠は、学習や記憶機能を向上させ、日中の集中力を高めます。不眠症の人は、うつ症状やメンタルヘルスの悪化、また体重増加や心血管疾患のリスク向上などの身体的な影響も指摘されています。
ほとんどの若年成人は、休息を実感するために7〜9時間の睡眠を必要としますが、睡眠の質を向上させることも同じくらい重要であると、Stijn博士は話します。「良い睡眠とは、光や騒音などの外部からの影響を最小限に抑え、深く休息できることです。」
テレワークが睡眠に与える影響
テレワークを取り入れることで、通勤時間が削減され、睡眠時間が増えている人も多いでしょう。中には昼寝を取る余裕ができた人もいます。しかし、多くの人が 「睡眠が浅く、睡眠の質が低下した」 と感じているのはなぜでしょうか。
1. ルーティンの喪失
Stijn博士は、「パンデミックにより、私たちの生活リズムが大きく崩れました。これにより、社会生活や運動、睡眠に影響が及んでいます。」と述べています。
パンデミックの初年度に多くの人が仕事量の増加や子供の在宅学習による負担を経験し、ストレスの量が増えていきました。ストレスによって分泌される「コルチゾール」は、私たちを覚醒状態に保つ一方で、睡眠ホルモンである「メラトニン」 の分泌を抑えてしまいます。その結果、寝つきが悪くなり、短く、浅い眠りが増えるのです。
2. 仕事と休息の境界が曖昧に
家を離れて通勤するという行動が、仕事とプライベートを区別する役割を果たしていました。しかし、テレワークでは、この切り替えが難しくなります。リラックスするはずの ソファや寝室で仕事をしてしまうと、物理的な境界線が曖昧になります。結果、仕事が終わっても、その環境にいることで仕事のことが頭から離れず、寝つきが悪くなります。
また、スクリーン時間の増加やブルーライトの影響により、メラトニンの分泌が妨げられ、さらに睡眠の質が低下します。

3. 運動不足と日光の欠如
通勤やオフィス内での移動がなくなったことで、日常的な運動量が減少しています。これにより、日光に当たる機会も少なくなり、体内時計が乱れる原因となってしまいます。そのため、疲労が体に蓄積されても、体内時計が協力してくれず、夜眠れなくなるのです。
特に夜型の人にとっては、テレワークの上にフレックスタイム制で働くことにメリットがあるように思えるでしょう。しかし、就寝時間を後ろ倒しにしすぎると、自然な昼夜のリズムが崩れ、自律神経の乱れなどが健康に悪影響を及ぼす可能性があります。
睡眠の質を向上させる3つの方法
Stijn博士が睡眠の質を向上させる方法を紹介してくれました。
1. 睡眠ルーティンを確立する
基盤となる生活習慣を整え、決まった時間に就寝・起床する習慣をつけましょう。多少のズレがあっても、意識的に体内時計を調整することが重要です。
また、照明を暗くする 、スマホをナイトモードにするなど、寝る前の合図となる習慣を取り入れましょう。
2. 運動を意識的に取り入れる
通勤がない分、意識的に運動の時間に優先度をつけて、確保することが重要です。
例えば朝早く目覚めたらスマホを見ずに日差しを浴びたり、昼休憩に15分ほど外を歩いたりと、工夫することができます。運動不足を解消するために室内でワークアウトするのも良いですが、日光を浴びる習慣をつけましょう。
スタンフォード大学の神経科学者Andrew D. Hubermanも、起床後30分以内に日光を浴びることで、睡眠・覚醒リズムが整うため、推奨しています。

3. 仕事と休息の境界線を引く
境界線をはっきりとさせ、オン・オフのスイッチを切り替えるためのリラックスタイムを設けて、仕事のストレスをリセットしましょう。
十分なオフの時間を確保することで、燃え尽き症候群を防ぐだけでなく、生活リズムが乱れる「リベンジ夜更かし」を防ぐことができます。
また、スペースに余裕があれば、仕事とプライベートのゾーンを分けましょう。家族で夕食を食べる場に資料を置いたり、リラックスするはずのベッドでパソコンを操作せずに、ある程度の境界線を作りましょう。
快適なベッドも、メールの返信をする場所にしてしまうと、睡眠の質を下げる要因になります。
プロフェッショナルのサポートを活用する
「睡眠障害とは、必要な時に眠れない、あるいは起きていられない状態が日常生活に支障をきたすことです」と、Stijn博士は説明します。
単なる生活習慣の見直しでは解決できない場合、専門家の診断や治療を受けることも選択肢の一つとなります。
テレワークを睡眠の味方に

「よく笑い、しっかり眠ることが一番の治療法」ということわざがあります。
睡眠は、私たち人間にとって自然なものです。ですが、社会が24時間常に「オン」であることを求めるあまり、多くの人は休息の必要性を忘れてしまっています。
テレワークの柔軟性を活かしながら、意識的に睡眠を改善する習慣を取り入れましょう。健康的な働き方の一歩は、良い睡眠から始まります。