「ストレスは力強い原動力であり、障害ではない」- 起業家・Bill Phillips
迫る締切、病気の母の介護、パートナーとの口論、水漏れの修理。これらに共通するものは何でしょうか。
「ストレス」という言葉が思い浮かびませんか?
一般的にはネガティブに捉えられることが多いストレスですが、実際には有益な面もあれば、疲労をもたらすこともあります。ここに良いストレスと悪いストレスの違いがあります。
プレッシャーや要求によって起こるストレスは、身体的、心理的、感情的なストレッサーに対する自然な生理的反応です。これらの反応は5つの方法で現れます。
- 身体的(例:動悸、発汗、食欲の変化)
- 心理的(例:考えすぎ、悲観的思考、集中力の低下)
- 感情的(例:パニック、怒り、悲しみ)
- 行動的(例:再評価、習慣の変化)
- 対人関係的(例:対立、社会的ひきこもり)
ストレスの役割
ストレスの第一の機能は、人間の最も原始的な本能である「生存」です。戦うか逃げるかの反応がなければ、生命に関わる状況において迅速に対応することができません。第二の機能は「モチベーション」です。ある程度のストレスがあることで、エネルギーの急増や切迫感が生まれ、困難な作業の完遂や問題解決を助けます。最後の機能は「レジリエンスの構築」ー 困難に耐えたり逆境から復活する能力を高めてくれます。
3種類のストレス
アメリカ心理学会によると、ストレスには3つの種類があります。
急性ストレスは日常生活の中で、短期的なストレス要因によって引き起こされます。状況が落ち着くと、身体機能は正常に戻ります。急性ストレスは、昇進や妊娠などのポジティブな出来事によって引き起こされる「快ストレス」と、同僚との口論などのネガティブな出来事に関連して発生する「不快ストレス」の2つのカテゴリに分類されます。
エピソード性急性ストレスとは、急性ストレスが連続して発生する状態を指します。急性ストレスは一時的なものであるのに対し、エピソード性急性ストレスは、頻繁な締め切りのプレッシャーなどのストレスが積み重なり、ストレスを感じる状態が続くことを特徴とします。
慢性ストレスは、数カ月から数年続き、時間とともに蓄積されます。終わりが見えない、状況が手に負えないと感じたり、無力感を抱くことがあります。病気の家族を介護している場合や、長期間仕事が見つからず経済的なストレスを抱えている場合などが例にあげられます。時として慢性ストレスは、身体的な病気(脳卒中など)や精神的な症状(うつ病など)につながることがあります。
「自己解決型」と「他者依存型」
ストレスの種類を認識することに加え、職場のストレス要因を特定することも重要です。いくつか例をご紹介します。
- 未熟な組織文化
- 不明確な組織慣習
- 人間関係の悪さ
- 役割の対立
- 過酷な職務範囲
- 不健全なワークライフバランス
- トラウマ
米国の心理学者であるJulian Rotterは、ストレス要因に対するコントロールの種類が2つあると説明しています。コントロールの主体が自分の中にあると考える「自己解決型」は、例えば、チームの低業績の責任を自ら引き受けようとする傾向があるでしょう。一方、コントロールの主体が外にあると考える「他者依存型」なら、業績をマネージャーのサポート不足などの外的要因によるものと考えるでしょう。
驚くまでもなく、自己解決型は好成績と紐づく傾向があります。なぜなら、成功も失敗も自分の行動の結果だと認識し、自らの手柄を認めるだけでなく、必要に応じて問題を解決したり、改善に取り組もうと努力するためです。しかし、他者依存型の対応も同様に重要です。例えば、従業員が常に仕事への不満を報告する場合は、マネジメント層が迅速に対応することができます。
良いストレスと悪いストレスを区別する
簡単に言えば、良いストレス(快ストレス)は、結果に対して気持ちを高揚させます。興奮や期待といったポジティブな感情により、前向きな姿勢を保つことができ、心の平穏を維持する助けとなります。良いストレスは一時的なものであり、短期間であるため、ストレスのマネジメントも容易です。仕事の面接がその良い例です。この体験自体は身体的にも精神的にも準備が必要ですが、夢に見た仕事を手に入れるチャンスであり、一日で終わります。その先には夢のような未来が待っていると思えば、エネルギーに満ち、人生に対して意欲的になれるのです。
一方で、悪いストレス(不快ストレス)は私たちを悩ませ、不安を引き起こします。例えば、上司に数カ月週末を犠牲にして一連のプロジェクトを完遂するよう指示されたとします。同時に、あなたは業務時間外に資格を取得しようと勉強しています。このような状況は困難であり、しばらくの間耐え忍ばなければならないため、悪いストレスに該当します。
悪いストレスは悪影響を及ぼし、身動きがとれないように感じたり、状況に対するコントロールが奪われたように感じるでしょう。さらに、その先に利益が見えず、期待できる結果も得られません。このようなストレス要因が連続して発生すると、慢性的ストレスに繋がります。
良いストレスは… | 悪いストレスは… |
行動を起こさせる | やる気を削ぐ |
高揚感を感じる | 心配させ、イラつかせる |
パフォーマンスを改善する | パフォーマンス低下につながる |
行動に集中させる | 集中を妨げる |
うまく機能させる | 機能を阻害する(例:社交的な活動や睡眠など) |
気分を良くする | 不快にさせる |
良いストレスは害がなく、メリットがあるように見えますが、過剰になると逆効果をもたらすことがあります。以下の兆候に注意しましょう。
- ストレスが慢性的である
- 個人的な目標に関連していない(例:長期的なメリットがない)
- コントロール可能な範囲を超えている
- 日常において他のことに対処できなくなる
悪いストレスを良いストレスに変える
少しの工夫で悪いストレスを良いストレスに変えることも可能です。
1. 自分の強みにフォーカスする
リーダーシップや慎重さ、好奇心は、性格の強みを調査する「Values in Action Inventory of Strengths」の24の属性の一部です。自分の強みを認識しておくことで、ストレスがかかった際にその強みを発揮し、プレッシャーの中でもうまく対処できる可能性があります。例えば、問題解決能力が高い人は、仕事の短い納期を心を奮い立たせる挑戦と捉えられるかもしれません。また、チームプレイが得意な人は、他のメンバーを巻き込むチャンスと考えることができるでしょう。
2. 新しいスキルの習得に積極的になる
ストレスをポジティブに捉えることで、学びやキャリアにおいて成長することができます。例えば、内向的な従業員にとって、グループでの意見交換の場を初めて取り仕切ることはストレスになるかもしれません。しかし、これを避けるのではなく、前向きに取り組むことで、今後の会議で役立つコミュニケーションスキルを身につけることができるかもしれません。
3. 周りとつながる
ストレスによる行き詰まりを感じたとき、社会的なつながりが解決策となることがあります。親しい同僚や専門家に心の内を打ち明けることは、カタルシス効果によって気持ちが緩和されるだけでなく、問題から距離を置いて冷静に状況を分析したり、より広い視野で物事を見れるようになります。チーム内でお互いに頼り合うことで負担が軽減され、各自の強みと弱みを活かしながら、チームの相互作用を強化することができます。
良いストレスと悪いストレスをコントロールする
ストレスは避けられないものです。しかし、多くの感情と同じように、ストレスには役割があり、私たちに大切なメッセージを伝えています。残念ながら、「ストレス」という言葉が持つイメージが、そのメッセージを曖昧にしてしまうことがあります。
視点を変え、良いストレスと悪いストレスを見分けることで、悪いストレスを良いストレスに変換し、働く日々において良いバランスを保つことができるでしょう。