【コーチに聴いた】シリーズは、IntellectのICF(国際コーチング連盟)認定コーチや有資格カウンセラー、臨床心理士たちが難問にお答えするコラムです。今回はXiao Lingが、クライアントとの経験に基づき、同じ悩みを抱える方への実用的なアドバイスをお届けします。
多くの人にとって、昇進は嬉しいニュースです。しかし人によっては、新しい肩書が、自信喪失につながることがあるのです。そのままにしておくと、インポスター症候群のせいで、せっかくの達成感が落胆へと様変わりしてしまいます。どうすればそのような状況から抜け出し、昇進を心から喜ぶことができるのでしょうか。
クライアントのEmma(仮名)は、5年の経験ののち、最近ディレクターの役職に昇進した30歳の女性です。最初の高揚感が落ち着いたあと、Emmaは悩みながら私の元にやってきました。「おかしいんです」と彼女はいいます。「ずっとこの役職に就きたかったはずなのに、実際に昇進してみると、不安で動揺しているんです」
Emmaは不安感を「おかしい」と表現しますが、私にはおかしくはありません。昇進後にストレスや自信喪失を経験する人は珍しくなく、クライアントの多くは豊富な職務経験と素晴らしい成績にも関わらず「詐欺をしているように感じる」と打ち明けます。つまり、証拠もないのに自分の能力を疑問視する、インポスター症候群を抱えているのです。
Emmaとともに、彼女がインポスター症候群に陥る理由を理解しようと試みました。これらの5つの要因は、他の多くの人にも共通するものでしょう。
インポスター症候群に共通する要因
- 完璧主義:「間違ってはいけない。みんなから『できない人』だと思われてしまうから」、「上司は、他の候補者ではなく私を昇進させたことを後悔しているんではないか」、「前の役割ではうまくいったけど、今回は訳が違うんじゃないか」
- パワーバランスの変化:「前のチームメンバーが今は私に報告してくる。私をリーダーとして見てくれるだろうか」、「同じ上層部にいる前の上司は、私を同僚として見てくれるだろうか」、「私の意見は尊重されるだろうか?」
- 新しい権限への適応:「建設的なフィードバックが頭に浮かんでも、発言を我慢しないと昇進後偉そうになったと思われてしまう」
- 前任者との比較:「前任者は経験もあり年上だった」、「彼は優れたリーダーだった。代わりが務まるかわからない」、「比較され、私が力不足だと思うに違いない」
- 年齢への不安感:「私は30歳になったばかりの若い女性。20歳も年上のチームメンバーをどう扱っていいのか…」、「前のディレクターはずっと年上だった。私の年齢で真面目に取り合ってくれるだろうか」
インポスター症候群の代償
キャリアの伸び悩み
インポスター症候群はEmmaに大きな影響を与えました。この変化には急ピッチの成長が求められることは理解していましたが、不安によって成長が滞ってしまったのです。「質問できないんです。頭が悪いと思われたくなくて」と、彼女は認めます。彼女の恐れは、成長を鈍化させ、力不足の感覚を強めてしまっただけでなく、同僚やプライベートで手を差し伸べてくれる人たちとも疎遠になりました。
失敗やネガティブな印象を与えることを恐れ、Emmaは挑戦も遠ざけてしまいます。100%準備ができていないといけないという思い込みは、失敗への不安とともに多くの学習機会を彼女から奪ってしまったのです。「大きなプロジェクトを率いるという素晴らしい機会の提案がありましたが、100%うまくいくという自信がなかったので、他のディレクターに任せました」
非効率なリーダーシップ
「この役割がうまく果たせず、チームを失望させているように思えます」と、Emmaは涙ぐみながら話します。ある意味、彼女は間違っているわけではないのです。インポスター症候群は、彼女個人だけでなく、彼女に指示を仰ぐチームメンバーにも影響を与えます。まず「偉そう」や「高圧的」と見られる恐れからEmmaが建設的なフィードバックを控えるたびに、チームメンバーは学びの機会を失うことになります。
もちろん、このジレンマを抱えるのはEmmaひとりではありません。新しいリーダーは、初めて役割を任されたときは特に、人を喜ばせなければならないという感覚に陥ることがあります。優れたリーダーでいるよりもいい仲間でいるほうが簡単なので、カジュアルでフレンドリーなマネジメント手法を取りがちです。しかし、その場合、チームメンバーは方向性を見失い、成長が阻害され、成果を発揮できなくなってしまいます。
インポスター症候群にどう向き合うか
インポスター症候群とは、知らぬ間に進む自己破壊と言っても過言ではありません。しかし破壊的でありながらも、自分が「詐欺師である」という思い込みを払拭する方法はいくつかあります。Emmaとの関わりから導き出した戦略をいくつかご紹介します。
定期的に内省する
「過去を振り返るな」という人もいますが、内省は自らの成長を理解し、識別し、評価することに役立ちます。インポスター症候群は、結局のところ自分の可能性を制限するような古びたストーリーを、自分に語り続けているようなものなのです。自分が今まで何をやり遂げたのかを認めることなく、私たちを過去に閉じ込めます。定期的な内省は成長を棚卸しする手助けをし、キャリアを進展させていくうえでの自己認識を形作っていくために重要です。
試してみてほしいこと
- 履歴書の「スキルと経験」の欄を定期的に更新する
- 仕事でうまくいったことを小さなことでも記録する
- 同僚や上司からのポジティブなフィードバックを書き留める
「完全に不完全」であることを受け入れる
新規に昇進したマネージャーは「完成されたプロジェクト」として自分をみるのではなく、彼らが「途上にある」ことを受け入れたほうがよいのです。学びに終わりはなく、「100%の準備」は美しくも危険な妄想で、自信喪失の種をまいてしまいます。Emmaは一度手放したら、フィードバックや支援を求めることに抵抗を感じなくなりました。事実、会社にエグゼクティブ・コーチを依頼したほどです。
試してみてほしいこと
- 新しい役割での支援システムを明確にしておく
- 学習や発展の機会を積極的に求める
- エグゼクティブコーチングや類似のリソースを探求する
役立たない思考のパターンを明らかにする
私たちの思考は、その状況に対してどのように感じ、反応するのかに影響するため、ネガティブな心の声をあおる役立たない思考パターンを認識しておくのは重要です。
例えばEmmaは、全部かゼロかの極端な思考パターンに陥り、正しくやるか、全くやらないかのどちらかでないといけず、たったひとつのミスが彼女を詐欺師にしてしまう、と思い込んでしまいました。
試してみてほしいこと
- 役に立たない思考に気付くためのジャーナリング
- よくある思考パターンを明らかにする(一般化しすぎたり、逆に個別化しすぎたりするなど)
自分自身と、行動や出来事を分けて考える
「わたしはなんてダメな人間なんだ」と言っている自分に気づいたことはありますか?それなら、行動や出来事(プロジェクトの失敗)を、あなた自身(ダメな人間)と、混同してしまっています。あなたの行動と、あなた自身を区別することはとても大切です。自身を無価値とみなすのではなく、単に人はつまづくことがあるのだという事実を認識しましょう。そのときにも、自分自身を決めつける必要はありません。
試してみてほしいこと
- 自分に話しかけるとき、形容詞よりも、動詞を使う(私はこうだ、ではなく、私はこうする)
自分で自分の邪魔をしない
現在のEmmaは、ディレクターの役割に就任してから4カ月となり、日々たくさんのことを学んでいます。事実、上層部からはポジティブなフィードバックを得ています。間違ったりすることもありますが、彼女はもう、昇進について疑ったりしません。
「ゴールにひるまないのなら、もっと大きな目標を目指せる」と言ったりします。期待外れになるのではという恐怖は、活力を失わせるものにならない限り、価値ある挑戦の証であることがよくあります。もしEmmaの経験に自分を重ねるようなら、コーチと一緒に取り組むことが役立つでしょう。
コーチングがどのように機能するのかについては、こちらをご覧ください。