心理的安全性とは、組織の中で避難や拒絶される心配なく、率直な発言ができるという状態のことで、これまでに多くの議論がなされてきました。
職場で心理的安全性が担保されていると、チームの中に信頼関係が生まれ、従業員は自分らしさを最大限に発揮して働くことができます。
また、不注意な見落としや、重要な場で不正確な情報が共有されることを防ぐことができ、仕事がスムーズに進むようになります。
同時に、従業員のエンゲージメント、やる気、レジリエンスの向上につながり、質の高いコミュニケーションが生まれ、それがより良いチームワークとなり、大きなイノベーションを生み出すことができるのです。
諸悪の根源
職場において心理的安全性をどのように確保するかという問題は、ここ数年、急速に広まってきています。
従来、職場におけるマネジメントは、「仕事」と「仕事以外」の話を分離し、管理職が効率化のために明確な線引きをするものでした。しかし、この考え方は、心理的な安全性を確保する上では、決して好ましいものとは言えません。
マネジメント層が、業務のことだけに集中し、従業員の仕事以外のマターを軽視してしまうと、従業員は「理解されていない。話を聴いてもらえない。適切に評価されていない」と感じてしまいます。
新型コロナウイルスが私たちの働き方を大きく変える以前から、2017年のギャラップ社の調査に回答した社員のうち、「自分の意見は職場で重視されている」という設問に同意したのはわずか30%という惨憺たる結果になっています。また、「職場において、自分が重要であると感じない」と回答した人は70%にのぼり、これらが理由で離職率の上昇、安全事故の増加、生産性の低下につながっています。
なぜオープンドアポリシーは閉鎖的と感じるのか
多くの企業が、ハイブリッドな職場環境におけるコミュニケーションの透明性を高めるために、オープンドア・ポリシーを導入し始めていますが、現実は、理想とあまりにもかけ離れているようです。
Intellect社のリーダーシップ・コーチであるThais Pietro氏は、このギャップの原因は、企業のリーダーシップに3つの要素が欠けているためであると分析しています。
- 従業員との積極的な関わり:管理職は、従業員が求めれば話すことにオープンであることを積極的に示す必要があります。
- あらゆる階層の従業員を包括する:DEIが注目を集める昨今。この項目は「I」のインクルージョンに当たります。従業員に対して、会社が自分を見ていること、評価していることを示すことで、従業員の職場への帰属意識が高まり、組織に大きな影響を与えることができるようになります。
- 共感:同僚への思いやりと共感を示し、組織の模範となることで、コミュニケーションの効果を向上させ、意見の対立を受け容れ、ポジティブな結果をもたらすことに役立ちます。
「リーダーは、オープンで親しみやすい存在であることで、チームの信頼を得ることができるのです」とThais氏は強調します。「上記の項目を実践していれば、わざわざオープンドアポリシーがあることを伝える必要はなくなります」。
リモートワークと隣り合わせの問題
COVID-19は2020年からの2年間、世界の多くの人々に孤立を強い、リモートワークやハイブリッドワークへの移行を促しました。
多くの人がデジタルによる変革の加速が必要であることに同意している一方で、新しい働き方は仕事のダイナミクスを大きく変え、心理的安全性に関する継続的な問題を悪化させ、新しい問題を作り出しています。
ハイブリッドワークは、仕事と生活の境界線を曖昧にします。このブログの記事で述べたように、在宅勤務の社員は、新しいルーチンに慣れる必要があり、勤務時間外でも仕事の対応などをすることで業務過多になってしまったり、疎外感を感じてしまうことがあります。
マネージャーは、チームリーダーとして、チームメンバーの心理的安全性を維持・促進し、信頼性、透明性、チームの有効性を高く保つという大きな責任を負っています。
しかし、ハイブリッドワークの環境は出社が当たり前の以前とは大きく異なるため、リーダーは、育児、メンタルヘルス、健康リスクなど、社員一人ひとりの個人的な状況を考慮して、人材配置、スケジュール、調整を決定し、異なるアプローチでチームを管理しなければならないのです。
リモートで心理的安全性の低さを見極めるには
ハイブリッドな職場環境でのコミュニケーションといえば、チャットメッセージやオンラインミーティングなどで、いくら観察力のある管理職でも、従業員の仕事への関心や心理的安全性のレベルを判断するための非言語的な手がかりがほとんど得られなくなってしまいます。
Thais氏は、チームメンバーが心理的な安全性を感じていない可能性を示すヒントとして、次の点を挙げています。
- 会議への参加率が低い。質問や意見が少ない、あるいは無気力・無関心に見える
- 一般的にエネルギーレベルが低く、スケジュールや成果物に対するコミットメントが不足している
- 自分のミスを認めることに抵抗があり、難しい話を避ける
- 必要な時に助けやフィードバックを得ようとしない
このような場合、マネージャーは足早にタスクの議論に入ることを避けるべきです。そうすると、マネージャーは仕事のことだけを考えているという従業員の認識が強まり、信頼がさらに低くなる可能性があるからです。
その代わりに、時間をかけて純粋に従業員の声に耳を傾けましょう。従業員が精神的にどのような状態にいるのかを理解することが、従業員からの信頼を取り戻し、心理的に安全な空間をつくるために非常に重要となります。これは、出社していても、在宅勤務でも同じです。
「ハイブリッドワークでは、リーダーは社員の話を聞く練習をする必要がありますが、会議や交流に積極性を持たせ、雰囲気を盛り上げる責任もあります。
これは、たとえオンライン会議であっても、プロジェクトやタスクに対するワクワクを表現するなど、簡単にできることで雰囲気を盛り上げることができるとThais氏は説明します。
もうひとつの重要な習慣は、リーダー自身も失敗する可能性がある人間であることを示すことです。
リーダーは、職場でセルフケアの習慣と自分への思いやりを示すことで、人間らしい自分の姿を共有して、チームメンバーとの信頼関係を築くことができます。そうすることで、部下は自分の間違いを認め、受け入れることが容易になります。仕事をしていれば間違いは避けられません。しかし、それを自他ともに認めることができれば、お互いにうまく対処できるようになるのです。
どうすれば変えられるか
では、ハイブリッドワーク型の職場において、マネージャーはどのようにすればチーム内の心理的安全性を高めることができるのでしょうか。
Thais氏は、そのヒントとなる3つのアイデアを紹介しています。
1. 高い目的から始める
なぜ心理的安全性が重要なのかについてチームと話す時間を取ることで、マネージャーは、すべての関係者が心理的安全性から何が得ることができるのかを従業員に理解させることができます。
特にハイブリッド型の職場環境では、マネージャーはチームメンバーと個別に連絡を取り、彼らがどの程度安全だと感じているか、その感覚を高めるにはどうしたらよいかを常に理解することを習慣づけることができますし、そうする必要があります。
日々、マネージャーは、チームにおけるインクルージョンを促進し、現状打破の機会を提供し、仕事やプライベート上の懸念について率直に話し合う時間を設けることで、心理的安全性へのコミットメントを常に高めていけるでしょう。
2. 「詰める」のではなく「支える」
マネジャーは、チームメンバーが失敗したり、期待に応えられなかった場合に、「詰める」のではなく「支える」ことが重要になります。
また、責任の所在を詰めることなしに、ミスの原因や理由をお互いに認識することでも率直な話し合いは成立します。
そのうえで、解決策を考える会話をするとより効果的に物事が進みます。責任追及ではなく、問題解決に焦点を当てることで、イノベーションを促すことができるのです。
3. 意見の対立を「生産性」の一部と捉える
意見の相違や対立がある場合、マネージャーは個人の選択や意見に焦点を当てるのではなく、チームにとって望ましい結果を追及し、深い対話と生産的な議論を促しましょう。
意見の対立がある状況で協調的に議論を進めることは、新しいアイデアや既成概念にとらわれない解決策、創造性を高めるための空間を生み出し、チームメンバーにより革新的なマインドセットを育むのに役立ちます。
長い目で見る
人々の働きかたが進化し、多様化する中で、リーダーが社員にとって安全な空間をつくる重要性はますます高まっていくことでしょう。
ハイブリッドワークのトレンドは、導入のきっかけとなった新型コロナウイルスよりも長続きすることは確実です。多くのマネジャー層はそれを心に留め、組織における心理的安全性の醸成をできるだけ早く実践することが大事になります。
もちろん、心理的安全性醸成における最大の変革は、組織のリーダー層から始めるのがベストです。
高い心理的安全性を定着させ、仕事のやり方を見直したいと考えている人たちにとって、理想的には外部のファシリテーターが中立な立場で入り、チームメンバーが職場で直面している問題を共有するファシリテーション付きの議論を何度か行うことをThais氏は提案していいます。
このディスカッションでは、同僚への期待、応答の速度、規範、優先順位、KPI、仕事量などのトピックが話し合えるでしょう。
このような議論を経ることで、トップマネジメント層が全体としてより良い働き方を構想でき、長期的には組織の心理的安全性を向上させられるのです。