離職を防止!新入社員がぶつかる「リアリティショック」とは?【産業医のキモチ】

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Apr 3, 2024

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Z世代を象徴する言葉に「蛙化現象」というものがあります。

もともとは心理学用語の一つであり、グリム童話『カエルの王子様』という物語に由来していますが、一般的には、好きな相手に好意を示された途端、相手のことを嫌いになってしまうことを指します。

Z世代の特徴を踏まえて言い換えれば、わずかなきっかけで、好意を持っていた相手に対して冷めてしまうという意味で用いられることが多いようです。

新入社員が新社会人としての生活をスタートしようとするこの時期に、内定を得た企業への蛙化現象を心配する必要はそこまで高くないと思いますが、引き続き、企業として留意しておくことがあります。

それが「リアリティショック」です。

かつて、五月病や六月病と呼ばれていたものと発症時期や内容は類似していますが、五月病や六月病が、新しい環境に慣れるために、または慣れてきたために、そこまで抱えていたストレスの表現形として、いわゆる適応障害のような症状を発症してしまうのに対し、リアリティショックは、入社前に理想として抱いていたイメージと入社後に現実として体験される実際の間に大きなギャップを感じることで、意欲が削がれてしまったり、最悪の場合は、離職に至ることもあります。

リアリティショックについては、大きく三つにカテゴライズされます。

一つ目は、最もイメージしやすいものかもしれませんが、事前の理想像や期待値が高すぎるあまり、厳しい現実を目の当たりにした時に、事実として受け入れられないというもの。既存型のリアリティショックとも呼ばれ、過度に楽観的であったり、非現実的な状況ばかりを想像していると陥る構造として理解されます。

二つ目は、言うなれば一つ目とは真逆の構造ですが、あらかじめ厳しさを想定し、強い覚悟で臨んだものの、ぬるい現実でしかなかった時に、落胆させられてしまうというもの。肩透かしタイプのリアリティショックとも呼ばれ、質実剛健で意欲的なタイプ、経験主義で労を厭わないタイプに経験されることが多いでしょう。

三つ目は、専門職型のリアリティショックと呼ばれるもので、二つ目と同様に、厳しさは覚悟していたものの、待ち受けていた現実が遥かにその想像を超えており、心身ともに限界を迎えてしまうというもの。文字通り、特別な経験や特殊な技能が要求される専門職の領域や、旧来からのやり方や格式・伝統を重んじる世界、例えば、職人芸が継承されたり、師弟制度で成り立っている世界などが挙げられるかもしれません。

ここに挙げたような類型の中で、後二者についての議論はここでは割愛してもよいでしょう。

Z世代と呼ばれる新入社員を迎えるにあたり注視すべきものは、言うまでもなく、既存型のリアリティショックです。一昔前に比べ、情報収集の手段は飛躍的に発展し、知りたい情報へのアクセスや得たい情報へのアプローチは容易くなりました。しかも、それらを実現するための労力は限りなくゼロに近く、机に向き合えば、究極的には手のひらの中で展開される時代になってしまいました。

知りたかったことを能動的に調べ、知的好奇心を積極的に満たしていたインターネット黎明期と比較すれば、指数関数的に隔世の感が増しているように思われます。就職活動はゲーム、内定はゴール、その先にある新社会人生活のスタートが、彼/彼女らにとって果たして何を意味するのか?このことを真剣に考えなければならないでしょう。

きっと、情報収集力に問題がある訳ではないのでしょう。一方で、情報編纂力には個人差があるのかもしれません。とは言え、いわゆる情報リテラシーの違いを論じ始めてもきっとキリがないでしょうから、その議論もここでは割愛いたしましょう。

話をもとに戻しますと、Z世代のリアリティショックの実態は、入社してみないと分からないことが分かった時に、その感覚や感情を上手くコントロールできないことにあるのでしょう。そこに足りないのは情報量ではありません。むしろ、情報過多になりすぎているが故に、情報量の制限を行うことすら必要かもしれません。

情報(量)ではないとすれば何か?

よく、想像力を鍛えようとか、想像力を豊かになどと言われますが、個人的な見解としては、その両輪は知識と経験、理論と実践だと痛感しています。現場主義で叩き上げることも素晴らしいことですが、気合いや根性だけでは、その経験を広く伝えていくことはできないでしょう。何を問うても立板に水がごとく、理路整然と答える様も美しいですが、理論ばかりで実がなければ、人の心は掴めないでしょう。とは言え、入社を目前に控えた新入社員を前に、あれをやってこい、これをやってきてと今さら課すことは、もちろん現実的ではありません。

要は、これから彼/彼女らが直面する現実に、会社の先輩として、人生の先輩として、寄り添ってゆくことが肝心なのではないでしょうか。

頭でっかちになっているイメージを現実世界にフィットさせていく、イメージと現実の乖離が起こることを無意識に恐れたり、恥を避けようとする極度な防衛心理に、「それは当たり前のことだよ」「失敗しても、全然いいんだよ」と、しっかりと伝えること。

会社の制度を理解し、業務を覚えてもらうことももちろん大切ですが、こういったソフト面の細やかなメンテナンスを当初から丁寧に行い、本人の経験値、納得感や自信へと着実に繋げることで、自走できる脚力を自らが養っていけるように育てていくことが望ましいのではないかと思います。

 


 

PROFILE: VISION PARTNER メンタルクリニック四谷 院長(精神科医・産業医)尾林 誉史

東京大学理学部化学科卒業後、(株)リクルートに入社。退職後、弘前大学医学部医学科に学士編入し、東京都立松沢病院にて臨床初期研修修了後、東京大学医学部附属病院精神神経科に所属。現在、VISION PARTNERメンタルクリニック四谷の院長を務めながら、23社の企業にて産業医およびカウンセリング業務を担当。メディアでも精力的に発信を行なっている。著書に「元サラリーマンの精神科医が教える 働く人のためのメンタルヘルス術」(あさ出版)、共著に「企業はメンタルヘルスとどう向き合うか―経営戦略としての産業医」(祥伝社新書)など。

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