「気に入らないことがあれば、言いなさい」- レイチェル・ジョイス(作家)
Intellectでコーチングセッションを受ける従業員の多くは、職場であったことについて話したいことがたくさんあります。ネガティブな体験に関しては、問題点をきわめて詳細に語ることもあれば、具体的な解決策まで説明することも。もし、このような会話が従業員とコーチの間だけでなく、従業員と上司の間でも行われていたらどうなるでしょうか。
従業員が発言しないことによる、組織の損失は大きいと考えます。意見、懸念、アイデアなどの従業員の声は、イノベーションを起こし、パフォーマンスを向上させる力を持ち、組織内で重要な役割を果たすからです。一方で、彼らが沈黙しているのは、組織における課題を暗示しているかもしれません。「従業員の声を受け止める」という単純な行為が、被害を軽減し、損失を防ぐための第一歩です。
私は心理学者であり、そして組織開発を提供するコーチとして、従業員が声をあげないことはよくある事と断言できます。現に、50%の従業員が沈黙を選択しているという調査結果も出ています。このようなためらいが、不満を見て見ぬ振りをする文化を作るのです。
従業員が発言を避ける課題
仕事量
Benenden Health社によると、職場の重要課題の1つが仕事量増加です。従業員は、自身の労働時間や業務範囲から仕事量のイメージを形成します。しかし、予算削減や透明性の欠如などの組織的な要因により、予想以上の仕事を求められることもあります。負荷の大きい仕事を長時間こなすことが求められると、燃え尽き症候群、睡眠障害、パフォーマンスの低下、メンタルヘルスの不調などの問題につながりかねません。
マネジメント
マネジメント層は、チームを統率するという重要な役割を担っています。多くの場合、チームメンバーからは「ロールモデル」として見られているでしょう。マネジメント層、従業員の指導、心理的安全性の確保、フィードバックの提供、従業員のエンゲージメントの維持などについて、適切なトレーニングを受けるべきです。昇進したばかりのマネージャーや中間管理職にとっては特に重要となります。これらのスキルがなければ、従業員へのサポートが不十分な職場では離職率の増加、社内モラルの減少、生産性の低下につながるでしょう。
対人関係
優れたコミュニケーションスキルは、同僚と良い関係を築き、関係性を維持するのに役立ちます。個人の体験を共有したり、人とつながったり、または単に情報を交換したりするときにそのスキルを活かすことができます。このように、コミュニケーションは日常的に行う活動である一方、従業員が抱える悩みになりやすい課題です。私のクライアントも同僚との関係構築を妨げる要因に、言語の壁、誤解、フィードバックの欠如などを挙げています。
企業方針
特にスタートアップや成長スピードが速い企業では、従業員は常に変化する企業方針と向き合わなければいけません。方針が改訂される度に、従業員は日々の業務をこなしながらも、新しい方針に適応する必要があります。新しい方針に明確さが足りない場合、それが不安やフラストレーションの原因となり、従業員の不満を高めることになるでしょう。
なぜ従業員は意見を述べないのか?
匿名での報告制度がない
懸念を表明することで自身の雇用に影響がないと保証されていなければ、従業員は降格や解雇、またはブラックリストに載ることを恐れ、口を閉ざすのは当然です。これを避けるには、匿名の報告制度が活用できるでしょう。
匿名の報告制度は雇用主と従業員との架け橋になり、従業員は透明性を保ったまま情報を開示できます。最近、私のクライアントは休日出勤に不満を持っていると話しました。彼は報告したいと思っていましたが、報告内容がチーム会議で取り上げられる可能性があると知ると、沈黙を選びました。報告者が誰かがわかることでマネジメントは適切にフォローができる反面、従業員の負荷は増えます。表面的には誰も問題を抱えていないように見えるかもしれませんが、深堀りすると心の底では不満がある従業員もいることでしょう。
従業員が発言力を持っていない
人は生まれつき優れたコミュニケーション能力を持っているわけではありません。従業員の中には、自身の考えや気持ちを自覚していても、建設的に表現することに苦労する人もいます。どんなに素晴らしいアイデアや正当な不満も、内容がうまく伝わらなければ却下されてしまう可能性があります。私のクライアントの中には、会社のKPIの仕組みを改善する立派な方法を考えた従業員の方がいます。しかし、自信のなさと自己主張スキルの低さから、彼女はそのアイデアを会社で広めることはありませんでした。自己主張のスキルなどは、研修によって比較的かんたんに改善できる能力です。
アジア特有の文化
一般的に、アジア企業はヒエラルキーがあり、家父長主義で指示的だと従業員から思われています。従業員からのアイデアやフィードバックには耳を傾けずに、マネジメントが決定権を持ち、権威はトップに集中しているように見えるです。
私の経験では、このような閉鎖的な考えは組織の構造、オペレーション、人間関係、そして文化に大きな影響を与えます。過去の私のクライアントには、会社の新しい手当制度に納得がいかないという悩みを持った人がいましたが、それを発言することはありませんでした。同様に不満を抱えている同僚たちは上司からの「命令」に従っていたため、自分一人だけが組織の厄介者と見られることを恐れて報告を躊躇ったのです。
「何も変わらないだろう」
想像してみましょう。あなたは一度と言わず、二度も懸念を声に出しましたが、会社から気付いてもらえません。当然、三度目の声を上げるモチベーションは湧いてこないでしょう。自分のフィードバックが真摯に受け止められなければ、従業員は黙ってしまうものです。特に、上記のような壁を乗り越え、勇気を振り絞って発言した従業員なので、受け止められないとがっかりしてしまうことでしょう。その上、良いアイデアを認めてもらえないことがあれば、積極的にイノベーションを起こす意欲も失うものです。こうやって従業員が疲弊することが、組織が経験する大きな課題の一つになっています。
組織がとるべき施策
皆が人前で意見や懸念、アイデアを述べることを得意とする訳ではありません。回避行動には理由があり、従業員を大切にし、その声に耳を傾ける組織になるには、「心理的安全性」が鍵となります。
(翻訳: Yoshie Baranauskas)