従業員エンゲージメントは常に企業の課題となっています。
パンデミック前からすでに、エンゲージメントの低い従業員により、企業には年間5500億ドルものコストがかかっていました。
エンゲージメントの低下した従業員は、仕事や企業の成功に対する貢献姿勢が低いため、欠勤率が高く、ミスを起こしやすい傾向にあります。
エンゲージメントの高い従業員と比較して、彼らは90日以内に離職する可能性が3.3倍高く、企業にとって大きな損失となります。
しかし、2020年のMercerによる研究では、極めて優れた従業員体験を提供できているのは、人事チームのうち11%に留まりました。
大量退職に伴い、常に先を行くためには従業員エンゲージメントを優先しなければならないことに、企業は気付き始めています。
そのための手法となりえるのが、行動コーチングです。
その理由を見ていきましょう。
従業員エンゲージメントの課題
デロイトは従業員エンゲージメントを「従業員が、組織や自分以外の従業員、ビジョンやゴールに対して抱く感情的なコミットメント」と定義しています。
従業員エンゲージメントへの企業の取り組みにおける最大の落とし穴は、それを人事部の問題としてしまうことです。
人事部は意識調査を行ったり福利厚生を導入したりできますが、従業員エンゲージメントの責任は経営チームにあり、組織を率いる手法や醸成する文化が問われているのです。
ギャラップによると、リーダーにとって効果的な手法は、上司になるのではなくコーチになることです。
リーダーにとって、行動コーチングは個人やチームのエンゲージメントにフォーカスするものです。
ただ従業員に指示するのではなく、コーチは各従業員に特有の能力や強みを引き出し、望む方向に導き、重要性や価値を感じさせながら、より優れた結果を達成できるのです。
問題なのは、ただ命令することのほうが簡単だということです。
コーチングは結局のところスキルであり、すべてのリーダーが自然にできることではありません。ここで、行動コーチのような専門家の出番となります。
行動コーチングとは?
Behavioral Coaching Instituteによると、行動コーチングとは、従業員のパフォーマンスの促進だけでなく、学習や発展にも関連する科学と芸術です。
これにより、組織は成長し、個人は仕事や学習や社会的な場面で、より効果的で、幸せにいられるのです。
オーストラリアを拠点とするIntellect認定の行動コーチであるRobyn Camは、コーチングを次のようにて定義しています。
つまりコーチは、個人的なハードルを超え、周囲からモチベーションやインスピレーションを見つける手助けをするのです。
行動コーチングを通じ、人は潜在的な能力を解き放ち、創造性や成長、発展への可能性を特定することができます。
そして、安全で信頼感のある、偏見のない環境で、目的やビジョンを明確にすることができます。
リーダーや従業員がコーチング文化を手にすれば、力強く、連帯感のある職場環境の創造に取り組むことができます。
仕事と私生活は思っている以上に絡み合っているため、コーチングは役に立ちます。
誰もが個人的なストレスと仕事関連のストレスに悩まされ、メンタルヘルスとパフォーマンスに影響が及びますが、自分自身をケアしたり問題を解決するための時間や場面がなく、チームメンバーに伝えるスキルも持ち合わせていないかもしれません。
「マネージャーと従業員の関係にコーチが介入すれば、従業員がセンシティブな問題に対するサポートを受けられており、マネージャーと従業員の間のプロフェッショナルな関係が保たれていることを、マネージャーは確認することができます。困難な状況にいる従業員に関わりサポートする必要があるようなら、コーチはマネージャーにとっての相談相手にもなりえます」と、Robynは言います。
誤解しないでほしいのですが、行動コーチは指示しません。
Robynの言葉を借りるなら、代わりに「相手が自身の道筋を見つけるための土台を作る」のです。
コーチングが従業員エンゲージメントに与える影響
行動コーチングは、マネージャーや従業員に、行き詰まりを感じたときに使える手法や戦略を与えてくれます。
コーチングは従業員とマネージャー、そして従業員と企業間の有効な関係性をつなぎあわせる手助けをしてくれると、Robynは言います。
点と点をつなぐことで、従業員は目的を見出し、より自信をもって確実に踏み出せるようになるのです。
マネージャーは、チームを育て、よりエンゲージメントの高い職場をつくることのできる、より優れたリーダーになることができるでしょう。
大きな全体像を見せる
Robynは物流会社のマネージャーの例を挙げます。
その会社では、とある従業員がデータ入力のミスを繰り返しながらも、本人は大きな問題と捉えていませんでした。
「マネージャーはいらだっていました。これまで解雇したことはなく、今回もそうしたくなかったので、別の解決策を模索しました」
「彼は視点を変えました。従業員が仕事の結果とその重要性を理解するための戦略を考えたのです」
マネージャーはその従業員を視察のために港や波止場に連れ出し、彼女がデータ入力を一桁間違うだけで、シンガポールに送るはずのコンテナがインドに送られてしまう可能性があることをその目に見せました。
おかげで彼女は自分の仕事の影響を理解することができ、いまもその会社で働いています。
「コーチングとは何かは、理解されにくいものです。結果をとても重視します。職場での経験について会話し、それについて違った方法で取り組むのです」と、Robynは言います。
内発的、外発的なモチベーションのバランスを保つ
従業員にとって、行動コーチングは内発的にやる気を維持し、仕事の目的意識を見つけることに役立ちます。
Great Place to Workの新しい研究によれば、内発的な動機の欠如は、企業を幸せでエンゲージメントの高い職場から遠ざける重要な課題です。
回答者の多くが、自分の仕事には意味がない、もしくは、違いを生み出すことができないと答えています。
内的なつまずきを解消する
行動コーチングが従業員を手助けするもう一つの方法は、個人的な問題について話す環境を与えることです。
「ネガティブな認知を直視したり、シフトすることで手助けします。人々は自分の考えに囚われてしまっていることがあります。
マネージャーに好かれていないために、機会やプロジェクトにおいて見過ごされていると考えるように、ある行動は彼らに反抗していると考えてしまうのです。
コーチングセッションを通じて、例えば、持っているスキルを明確に提示できていなかったことに気付くかもしれません」
従業員が内面的な問題や不安、判断を整理する手助けは、従業員のメンタルヘルスの安定やレジリエンスを改善し、結果、職場環境や関係性の改善につながります。
足りていなかったピースは行動コーチングかもしれない
マネージャーが最初から優れたコーチであることや、従業員が自ら連携の意識を見出すことを、企業は期待できません。
多くの場合、ガイドが必要ですが、ガイドを求めるべき相手がマネージャーなのか、キャリアカウンセラーなのか、セラピストなのか確信が持てないのです。
行動コーチングを従業員エンゲージメント戦略に組み込むことは、戦略的な方法と言えるでしょう。