インターネットミームやパロディ画像によって、セルフケアは小売療法、贅沢な食事、スパの日などと同義語になりました。今では、力を抜いてリラックスし、日々のストレスを取り除く手段は「セルフケア」と定義されています。
しかし、セルフケアは思いついた時にゆっくりすることだけでは完結しません。メンタル面での健康を保つために、意識的かつ定期的に実践する健康的な行動を習慣化することが必要なのです。
今日の職場環境において、セルフケアは、従業員の満足度と仕事のパフォーマンスを維持する上で、最も過小評価され、見落とされている要因の一つです。セルフケアへの理解が欠如しているため、離職、燃え尽き症候群、不安感、さらにはうつ病を引き起こしていると考えられます。
マーサーの調査によると、シンガポールでは、85%の従業員が2022年に燃え尽き症候群のリスクを感じていることを認めています。
また、リモートワークやハイブリッドワークに新たに適応する必要があり、働く人のメンタルを取り巻く状況はさらに悪化し、先行きが不透明ながらも、多くの従業員が仕事を辞めざるを得ない状況に追い込まれています。
この記事では、心の健康を育むためにできることを仕事でこなしている役割別に紹介します。
従業員のセルフケア
1.1. よく食べ、よく眠り、よく動く
体力づくりと同じように、心の健康を保つには、自律性と健康的な習慣が必要です。
散歩、ジョギング、ハイキングなどの運動は、映画鑑賞、アロマテラピー、ピクニックなどのリラックスできるアクティビティと並んで、Intellectがまとめたメンタル向上に効く60のリストに含まれています。
また、「質の高い睡眠」も上位に挙げられます。パンデミックによって世界の働き方が大きく変化し、多くの人の生活リズムを狂わせました。そのため、太陽の光を十分に浴び、体を動かし、仕事と休息の境界線をはっきりさせることは、意図的に行う必要があります。
睡眠研究者で心理学者のステイン・マッサー博士は、夜更かしや寝坊の誘惑があっても、一定の睡眠スケジュールを守ることを勧めています。また、1日の中で体を動かすことを優先させること、例えば運動したり、食事を注文せずに歩いて取りに行ったりすること、家では意識的に仕事場と休憩所を分けることを勧めています。
Intellectが行ったマッサー博士とのインタビューでは、さらに役立つヒントを紹介しています。
1.2. 不安の症状を早期に発見する
休息不足は、リモートワークがもたらす無数の弊害のひとつに過ぎません。あなたも、明日上司とのウェブ会議があると考えただけで、お腹が痛くなった経験はあるのではないでしょうか?
このような疲労感、心配事、燃え尽き症候群は社会不安の一種ですが、対処することができます。
通話中、必要なときだけカメラをオンにしたり、自分の映像ではなく相手の映像にフォーカスするような設定にしたりすることで、自分の外見を気にしなくていいようにできます。また、普段のオフィスと同じような格好をしてもいいでしょう。身だしなみを整えると、気分も良くなります。
また、定期的に休憩を取ることも忘れないでください。もし、会議でいつも他の人が話してばかりで、自分のアイデアが聞き入れられないと感じたら、上司に相談してください。
一言で言えば、「自分に優しく」です。
Zoom疲れは、不安感の犠牲者になってしまう要因の一つです。いつも先延ばしにしていたり、過労気味になっていたり、すぐに自分を貶めたり、小さな問題に感情的に反応してしまう人は、仕事を原因とする不安を感じている可能性があります。
このような悪循環に陥る前に、専門家に相談しましょう。相談は恥ずかしいことではなく、勇気ある行動です。あなたの心の健康が損なわれては、誰も幸せになることはできないのです。
1.3. 外部にサポートネットワークを作っておく
メンタルヘルスに関するサポートシステムを考えるとき、友人や家族、ラインマネージャーやメンターなど、最も身近な相談相手が思い浮かぶと思います。しかし、多くのアジア人が意識していないのが、エグゼクティブ・コーチングです。
Intellectのエグゼクティブ・コーチであるRobyn Camは、個人的なメンターがいるからといって、エグゼクティブ・コーチングが不要になるわけではないと指摘します。エグゼクティブ・コーチングは、過去を扱うセラピーとは異なり、未来を扱うもので、特にキャリアに悩んでいないときでも受けることができます。
Robynのインタビューでは、コーチングがどのようにあなたの心の健康とキャリア開発の両方を積極的に支援するかをご紹介しています。
もう1つ、見落とされがちなのが、自己啓発本です。調査によると、問題に焦点を当てた自己啓発本を読むことは、特定の心理的な問題を抱える人に役立つ傾向があることが明らかになっています。自己啓発本の人気が高まったのは、新型コロナウイルス感染拡大の影響が大きいかもしれません。しかし、ニューノーマルの世界では、これからもずっと人気であり続けるでしょう。
1.4. 困難な移行に備える
コロナ前の私たちの多くは、在宅勤務に魅力を感じていましたが、コロナ禍も2年目に入ると、デメリットを実感したのではないでしょうか。例えば、座りっぱなしになる、昼休みをきちんととらない、勤務時間が長くなるなど。
もし、あなたの会社がリモートワークへの移行を本格的に考えているなら、長い目で見れば、これらの習慣管理を始めるのに、今ほど適した時期はないでしょう。
オフィスへの復帰も簡単ではありません。世の中が通常営業の再開に向けて動き出している今、出社して働くことに不安を感じるかもしれません。
でも、それはあなただけではありません。大きな変化には不安がつきものですが、その根本的な原因を理解することで、健全な対処法を身につけることができます。早めに出社して仕事に慣れるようにしたり、楽しみなランチを計画したりすることで、これからの変化を前向きにとらえることができます。
これらのヒントは、心の健康を優先させながら、適応するために大いに役立ちます。
管理職のためのセルフケア
2.1. まずは自分のセルフケアから
他人のニーズを管理するリーダーですが、まずは自分自身のケアができていないといけません。飛行機が離陸する前の安全説明で必ず言われるように、他人に酸素マスクを付ける前に、自分のをつけましょう。
仕事では、境界線を敷くことで、自分の時間とエネルギーを確保することができます。また、自分では変えられないことを心配するよりも、自分の立場でコントロールできる要素に集中することができます。
特に人事担当者は、何十人、何百人のスタッフのケアを考える前に、自分自身のセルフケアの習慣を身につけることを考えるべきです。
また、職務を全うするために板挟みにあい、対面での交流を奪われがちな中間管理職も、自分自身のセルフケアプランを練っておくことが効果的です。
2.2. 従業員のパフォーマンスとウェルビーイングのバランス
部下の業績不振は、マネージャーにとっては避けられない問題です。
新型コロナウイルスが、社員のメンタルヘルスに良い影響を与えることは皆無だったでしょう。しかし、メンタルヘルスについては、コロナが流行るずっと前から、職場で語ることはタブー視され、静かな疫病として蔓延していました。メンタル不調を訴える社員に対処する際、管理職はどのように線引きすればよいのでしょうか。
Intelellectで人事部長を務めるShang Trinidadは、問題をメンバーの性格のせいにして非難するのではなく、仕事の成果というレンズを通して検討し、具体例を挙げながら、一緒に改善策をアクションプランに落とし込むことを勧めています。
サポートと働き方の調整を行っても事態が改善しない場合、業務改善プランを考えることが次のステップとなります。
リーダーのためのセルフケア
3.1. 持続可能なペースで進む
人は、女優兼プロデューサーであり、パティスリー(洋菓子店)のオーナーでもあるJeanette Awを見ると、彼女は多くの仕事をこなしながら、どうして自分の時間が持てるのだろうと不思議に思うかもしれません。
Intellect CEOのTheodoric Chewと臨床心理士のLinda Rinnが主催したウェビナーで、Jeanetteは、ビジネスオーナーは、他の人がどれだけうまくいっているかを気にするのではなく、自分のペースで歩む必要があると語りました。
また、Theodoricは、助けを求めることの重要性を強調し、多くのスタートアップ企業の起業家が、手を差し伸べると惜しみなく助けやアドバイスを与えてくれたと話します。企業のリーダーとして、ソーシャルメディア上のネガティブなコメントなどがあったら話半分に聴くことも、メンタルを守る上で有効な手段の一つです。
3.2. さらに上を目指すために休息をとる
リーダーの立場になると、仕事と生活の境界線はかつてないほど曖昧になります。組織全体の重荷を背負っているため、自分の時間を確保するのは時として不可能に思えるかもしれません。
しかし、リーダーが自分自身のケアを怠ると、会社の成長を妨げることになりかねません。たとえ経営者であっても、運動や休息などのセルフケアは計画的に行い、自分を見つめ直し、精神的な回復力を高める習慣を身につけましょう。
こちらの記事では、アジアで活躍する2人の起業家が、それぞれの組織でどのようにセルフケアの模範を示したかを紹介しています。ぜひ、参考にしてみてください。
組織におけるセルフケア
従業員のメンタルヘルスをサポートするために企業が果たす役割は、決して小さくありません。しかし、どのようにすれば、より良い職場環境を作るためのロードマップを描くことができるのでしょうか。
4.1. 心理的安全性の担保
従業員が批判や評価が下がることを恐れて懸念を口に出せないと、組織全体として士気や生産性が低下します。
職場の心理的安全性は、従業員一人ひとりが大切にされているというメッセージを発信し、従業員の信頼を維持し、従業員が活躍できる環境を整えることから始まります。
そのためには、社員が職場で直面している問題について議論できるような、社外向けのフォーラムを設けるとよいでしょう。そうすることで、リーダーには変革の提案の裏付けとなるデータが得られ、会社には従来のプロセスを見直す機会が与えられます。
部署内での信頼関係を構築するために、管理職は協調的な話し合いを促すことで、意見の対立を積極的に受け入れることができます。IntellectのリーダーシップコーチであるThais Pietroは、こちらの記事で心理的安全性を育む方法を紹介しています。
4.2. メンタルヘルスの取り組みを模範を示してリードする
Klookのピープル&カルチャー担当副社長であるCary Shekは、優秀な人材が会社を辞める原因をまず理解することが重要であると強調します。そのデータを用いて、企業は組織内のセルフケアをそれぞれのメンバーに合った形で始めることができると言います。
このような取り組みを効果的に進めるためには、リーダー自身がそれを体現していなければなりません。例えば、管理職が時間外に会議を開き、週末に返事をするようでは、会社のセルフケアの取り組みとは矛盾しているように見えます。
経営層などのリーダーが「率先垂範」することが、企業文化を社内に浸透させる最も効果的な方法なのです。トップが真の意味でセルフケア文化を構築する方法については、こちらをご覧ください。
4.3. 適切な人材を昇進させる
管理職の昇進は難しいものです。
企業が犯す最大の過ちは、権限委譲などの重要なリーダーシップスキルを持たないまま、優秀なプレイヤーを昇進させてしまうことです。部下にうまく仕事を任せられない人がマネージャーになると、それが原因で自分もチームも燃え尽きてしまう危険性があります。
企業は、Googleを見習い、貢献が得意で優れた専門性を持つ社員と、チームを率いてやる気を起こさせることに強い関心を持つ社員とを区別し始めるとよいでしょう。
また、管理職候補の採用プロセスにおいて、チームメンバーを巻き込むことも重要です。意思決定への関与の機会を与えることで、新リーダー就任後の人材流出リスクを低減することができます。
こちらの記事では、管理職を正しく支援し、活躍させるための強力なヒントを紹介しています。
4.4. 従業員を成功に導く
コーチングも、企業が従業員のエンゲージメントを高めるために検討すべき方法の1つです。
エンゲージメントの低下は、従業員が仕事にやりがいを感じられないとき、あるいは意見を尊重されなかったり、過小評価されたと感じるときに起こります。コーチングは、必要なツールや戦略を身につけたり、目的を見出す手助けをすることで、管理職を含む従業員の心理的な課題解決を支援します。
コーチングとは何か、そして、それがどのようにあなたの企業の成功に寄与するかについては、こちらの記事をご覧ください。
4.5. 時代遅れの企業ポリシーを見直す
最後に、休暇取得の方法や労働時間などの企業ポリシーが、今の世界標準に追いついているかどうかを検証する必要があります。
新型コロナによって生活のストレス要因が変化するにつれ、多くの企業は休日や労働時間について柔軟に対応するようになっています。また、福利厚生の面でも、心身の健康をより重視するよう、多くの企業が改変しています。
詳しくは、東南アジアの大手企業が方針をアップデートするために行ったことを、変更に伴う考慮事項とともに紹介したこちらの記事をご覧ください。
変化は日々の積み重ねから
あなたが組織の中でどのような役割を担っているかにかかわらず、自分自身のニーズは自分が一番よく知っているはずです。
それを尊重するには時間と努力を要します。しかし、自分自身や組織に少しずつ、しかし確実に変化が起きていることに気づけば、それは報われるでしょう。