職場において、社員のメンタル不調に気づくことができず、後悔する経験はないでしょうか?すでに休職せざるを得なくなってしまった、あるいは有能な社員が退職してしまった、という状況に陥ってからでは、多くの場合、手遅れです。ここでは、企業向けコンサルタントと公認心理師の視点から、職場でメンタル不調を打ち明けられない背景について詳しくご説明いたします。
2023年の厚生労働省の調査によると職場内のメンタルヘルス対策を検討していないと答えた企業は全体の55%だったと言う調査結果が出ています。職場内でメンタル不調を抱える人が相談しにくい主な理由として、以下の4点が挙げられます。
偏見やスティグマ(社会的な偏見)
「メンタル不調=弱い人」という誤解が根強く残っている職場では、相談すること自体が「評価を下げる」と思われがちです。また精神疾患や不調への理解が乏しいと、「面倒な人」「扱いにくい人」と見なされる恐れがあるので相談したくない、自分が抜けるとチームに迷惑が掛かるのと思い、相談を我慢してしまう傾向があります。助けを求めること自体が甘えたと感じてしまうケースもあります。
また昇進・異動・プロジェクト参加などキャリアに取って不利になるのではと不安に思い、言い出し辛く、長期的に「信頼を失う」と感じて黙ってしまう人もいます。
理解者や信頼できる人がいない
また人間関係が希薄だったり、管理職に相談しにくい雰囲気があると、話せる相手がいなくなりなかなか相談する事ができない可能性もあります。守秘義務が守られるか不安で、「相談内容が広まるのでは」と警戒してしまいます。
制度やサポートが見えにくい/活用しづらい
産業医やカウンセリング制度があっても、その存在や利用方法が知られていなかったり、「制度を使ったら居づらくなるのでは」という不安から利用をためらってしまうケースが見られます。
自分でも不調に気づきにくい
「疲れているだけ」「みんなもつらい」と思い込んだり、客観的なサインに気づかないまま無理を続けてしまったり、自分を無能だと信じてさらに頑張ろうとしてしまう人も多く、不調を放置しがちです。
メンタル不調の多くは職場環境に起因しており、適切なサポートや助言が得られていないケースが散見されます。
例えば、多くの企業で導入されているメンター制度やOJTにおいて、「なぜ何度も同じことができないのか」「これ、前にも言ったよね」といった指導が見受けられることがあります。このような指導は従業員の不安を煽り、メンタル不調を悪化させるリスクをはらんでいます。その結果、従業員は相談や質問をためらうようになり、自分の能力の問題だと感じてメンタル不調を助長させてしまうのです。しかし、相談を必要としている社員の多くは、業務や組織の「やり方」を十分に理解していないケースがほとんどです。したがって、相手が理解できるまで丁寧に説明することが、結果として組織全体の効率向上と従業員自身の成長に繋がります。
このような状況が続くと、従業員は問題を一人で抱え込み、精神的な負担が蓄積した結果、休職を選択するか、組織に何も期待せずに精神的な離職する(職場にはいるが心が離れモチベーションが低下している状態)、場合によっては退職に至るなど、組織機能の衰退を招く可能性があります。
著者のコンサルティング経験上、プライベートな要因に起因するような、従業員本人ではどうしようもできないケースは別として、組織側や教育する側の配慮があれば、従業員のほとんどは意図を理解し、そのポテンシャルを発揮できると考えています。
例えるなら、魚が陸に上がれば何もできないように、有能な社員がいるのではなく、その社員を有能に育てる環境が必要であると言えるのかもしれません。
PROFILE

公認心理師 Y
私は、日本の公認心理師であり、アメリカ・オレゴン州にて心理カウンセリングの修士号を取得しました。
10年以上の臨床経験を持ち、これまでに子供、青少年、大人、家族を対象としたカウンセリングを提供してきました。また産業領域では職場のメンタルヘルスケアにも従事し、職場でのハラスメント、キャリア、従業員の心理的ウェルビーイングに関する問題に取り組んできました。


