「ポジティブ思考」の落とし穴:有害なポジティブさ(トキシック・ポジティビティ)を手放す方法

「もっと悪い状況だってある」
「前向きに考えよう」
「感謝の気持ちを持つべき」

これらの言葉に共通するのは何でしょうか?一見、励ましのように聞こえますが、実は「トキシック・ポジティビティ(有害なポジティブ思考)」の一例です。

トキシック・ポジティビティとは?

トキシック・ポジティビティとは、「どんな状況でも常にポジティブであるべき」という考え方を指します。一見、前向きなアドバイスに思えるかもしれませんが、実際には人間が本来持つさまざまな感情を否定してしまうことにつながります。たとえば、悩んでいる同僚に「元気出して!」と言っても、相手は自分の気持ちを無視されたように感じるかもしれません。たとえ善意で発せられた言葉でも、相手にとっては「理解されていない」と感じさせてしまうことがあるのです。

トキシック・ポジティビティは、他人に向けてだけでなく、自分自身にも向けられます。「弱音を吐かずに頑張ろう」と自分に言い聞かせていると、つらい感情を無視したり、押し殺したりしてしまうことがあります。その結果、恐れや不安感がより強くなり、心だけでなく身体の健康にも悪影響を及ぼすことがあります。

感情を押し込めていても、やがて限界が来ます。そんなとき、「ポジティブでいられなかった自分」に罪悪感を抱く人も多いでしょう。「他の人は前向きに頑張っているのに、どうして自分だけ……」という比較が生まれ、自己否定のループにはまりやすくなります。

この悪循環が、感情を理解する機会を奪い、自己成長を妨げてしまうのです。

トキシック・ポジティビティのサイン

次のような行動に心当たりはありませんか?

  • 問題を直視せず、軽く流してしまう
  • 「前向きな言葉」で本音を隠してしまう
  • ネガティブな感情を抱くと罪悪感を感じる

これらは誰にでも起こりうることです。嫌な感情に向き合うのは勇気がいるため、ついポジティブな言葉で覆い隠してしまうのです。社会全体にも「悲しみ=弱さ」という風潮があり、知らず知らずのうちに他人に対しても同じ態度を取ってしまうことがあります。

たとえば:

  • 相手の感情を「大げさだ」と軽く扱う
  • 悩みを聞いたときに「元気出して」とだけ言う
  • 機嫌が悪そうな人を「ネガティブ」と決めつける

職場でトキシック・ポジティビティを防ぐために

その鍵となるのが「セルフ・コンパッション(自分への思いやり)」です。これは、失敗や弱さを否定せず、優しく受け止める姿勢のこと。セルフ・コンパッションには、主に3つの要素があります:セルフ・カインドネス(自分への優しさ)、コモン・ヒューマニティ(共通の人間性)、マインドフルネス(今この瞬間に意識を向ける)。

1. セルフ・カインドネス(自分への優しさ)

    多くの人は、他人には優しくできても、自分に対しては厳しくなりがちです。自分に優しくできると、期待に応えられなかったときでも「それでも自分には価値がある」と思えるようになります。たとえば、同僚が落ち込んでいたら、あなたはどんな言葉をかけるでしょうか?その優しさを、自分に向けてみましょう。

    こう考えるのではなく..こう言い換えてみる…
    「〜であるべき」を「〜でありたい」に変える失敗してはいけない。失敗しないようにしたいけれど、失敗があっても大丈夫。
    感情を受け入れるこんなことで緊張するなんておかしい。大事な場面で緊張するのは自然なこと。
    自分を気にかけるとにかく我慢して乗り切ろう。自分の気が楽になるために何かできることはないか。

    また、周りで誰かが落ち込んでいるときも、「元気を出して!」などではなく、次のように言い換えることで、より寄り添うことができます。

    • 「大変な状況ですね」
    • 「何て声をかけたらいいか分からないけれど、話を聞きますよ」
    • 「私にできることはありますか?」

    2. コモン・ヒューマニティ(共通の人間性)

    人はつらい状況にあると、自分だけが弱いと感じてしまい、レッテルを貼ってしまうこともあります。例えば、

    • 人前であんなに緊張してしまった…自分は人が苦手なんだ。
    • 子どもにイライラしてしまうなんて、ダメな親だ。
    • 話し合いを避けてしまった自分はなんて臆病なんだ。

    しかし、これらの感情は誰にでも起こる「人間らしさ」です。「誰でも困難を経験する」と気づくことは、感情を受け入れる第一歩になります。「他の人も頑張ってるのに、なぜあなたはできないの?」という考え方はトキシック・ポジティビティです。大切なのは、「あなたは一人ではない」という視点です。不快な感情は当然のことだと認識することで、それらを否定するのではなく、受け入れ始めることができるでしょう。

    3. マインドフルネス(今この瞬間に意識を向ける)

    嫌な感情に気づいたあと、どう対応すればよいのでしょうか?マインドフルネスとは、感情や思考、身体の感覚を「評価せずに観察する」練習です。その一つとして、S.A.F.E. テクニック(Soften, Allow, Feel, Expand)があります。

    1. Soften(やわらげる)
      呼吸に意識を向けながら、今の感情に名前をつけます。その感覚を体のどこで感じているかも意識しましょう。たとえば、プレゼンテーションで言葉が詰まった時は「恥ずかしい」「焦っている」という感情から、頬が赤くなるのを感じるでしょう。
    2. Allow(受け入れる)
      感情を「ダメなもの」とせず、そのまま認識しましょう。恥ずかしさなどの感情が「一時的な訪問者」と考えると、少し楽になるでしょう。
    3. Feel(感じる)
      優しさをもって、その感情が何を求めているのかを探ります。今感じている焦りは、何をあなたに伝えようとしていますか?たとえば「みんなから仕事ができないと思われている」という思考に走っていませんか?この「焦り」という感情からは、本当は「安心したい」「理解されたい」といった声が聞こえるかもしれません。
    4. Expand(広げる)
      最後に、人前でのプレゼンテーションは多くの人が緊張する場面だということを思い出して、「同じように緊張している人は他にもいる」と自身に伝えます。「私は最善を尽くしているし、他の人もそうだ」と心の中でつぶやいてみましょう。

    なお、自分の頬に手のひらを当てる、お腹に手を添える、などと体に触れることで安心感を得て、気持ちを落ち着かせる方法もあります。

    Intellectアプリでセルフケアをサポート

    ストレスが強いとき、自分だけでは気持ちを整えるのが難しいこともあります。そんなときは、Intellectのセルフケアアプリにぜひ頼ってみてください。認知行動療法(CBT)をベースにした豊富なプログラムがあり、「セルフ・コンパッション」を育てる学習パスなどを通じて、日常の中で心を整える習慣をサポートします。

    もし、「自己批判がやめられない」、「過去の経験がトラウマになっている」と感じる場合は、コーチングやカウンセリング、心理療法を検討してみましょう。Intellectでは、文化や言語に配慮した専門家とのオンラインセッションを手軽に利用できます。

    今日から、自分を責める代わりに、思いやりを向ける一歩を踏み出しましょう。

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